この２人には別分野での『成功体験がある』という共通項があると気付いた。
「失敗しても努力し続けて結果を出した。それを政治でも実践しているのかな、と」

　最初は、想田和弘監督のような、リサーチ、打ち合わせ、台本を作らず、
目の前の出来事を撮る「観察映画」を目指した。
「でも、そのままだと、彼（府知事選出馬の泡沫候補）の言動に腹が立ってきてしまう」と笑わせる。

　製作でカメラも担当した木野内哲也さんと話し合い、エンターテインメント性を高め、
「きちんと彼に罰も与えよう、と（笑）。後から著名候補者のコメントをとりに行き、
作品に入れました」。

　選挙をテーマとして映画ではあるが、作品は普遍的なものととらえている。
監督は「立ち上がる勇気、人生に立候補できる映画になれば、と思っています」。
木野内さんは「空気を読んで自分を抑える人が多い世の中。
もっと素直に、自由に立ってみたら、と伝えたいですね」

税金を使うことへの「弁明」

　藤岡監督と木野内さんが憧れた、想田和弘監督の「選挙２」は、前作で追った候補者に再び密着した。
　今作では、任期満了後、“主夫”として子育てをしてきた彼が、東日本大震災直後の
２３年、統一地方選挙に完全無所属で出馬する姿に密着する。
　小さな息子がいるこの候補者は放射能汚染の問題に触れない他の候補たちに怒りを覚え、急遽出馬を決める。前回のドブ板戦を封印し、選挙カーや事務所、タスキも使わず。
選挙費用総額８万４７２０円で戦った。
>>3に続く

　放射能汚染問題を抱えた国が、震災後初の国政選挙で選んだ答えは、監督の理解の範疇を超えていた。
それを解くカギは、事故直後の市議会選挙に凝縮されていたのでは、
とひらめいたという。撮った映像には、いつもと同じ日常、選挙活動が繰り広げられていた。

　「日本にとって放射能汚染は想定外の出来事だった。ＳＦ映画のような、ゴジラ来襲のような」。本来は逃げるしかない。
だが現実には職などの問題によりできない。「だから、無意識に“なかったことにする”という選択をしたのかもしれないと僕は解釈した」

　もちろん、それを非難するのではない。
自分が見た世界をありのままに作品に提示した。
「自分を含めた環境としての“参与観察”で。特に今回は、『選挙』を撮った上での
作品なので自分の存在を消すことはできないと思った」

　光明も感じた。
追い続けた候補は結局落選したが、同じ選挙でトップ当選した他の候補者の選挙費用が“主人公”の８万４７２０円よりさらに安かったことを知った。

　「この選挙の候補者の多くが前作を見ていたようで、カメラを向けると、税金を使うこ
との弁明をする候補者もいました。自分の知らないところでジワジワと変化が起きているんだと思いました」

　今回の参院選はどうなるか。

以上